6/16は「無重力の日」。私たちに新たな発見と驚きを与えてくれる宇宙に思いを馳せて、本を読んだり、宇宙開発について学んでみたりするのもよいのではないでしょうか。
今回は、1992年、スペースシャトル「エンデバー号」に日本人科学者として初めて搭乗した宇宙飛行士 毛利衛さんをお迎えして、無重力環境での睡眠についてお話を伺いました。
——テンピュール®のマットレスとピローにはNASAの技術から生まれたテンピュール®素材が使われています。テンピュール®素材は、NASAが発明しスペースシャトルにも搭載された粘弾性素材を元にして、テンピュール®が完成させたものです。今回は、1992年と2000年の二回スペースシャトルに搭乗した毛利さんにぜひ宇宙での生活や睡眠についてお話をお伺いできればと思っています。
毛利私がスペースシャトルに初めて搭乗したときのミッションのひとつに「ニワトリの受精卵を打ち上げてその発生を調べる実験」がありました。卵は振動に弱く、打ち上げ時に割れてしまうのではないかという課題に直面しました。NASAの協力による新素材開発のおかげで、ロケット打ち上げ時発生する地上の3倍ものGと揺れによる振動から卵を守ることに成功し、日本の重要な生物実験を成功することが出来ました。その素材からテンピュール®が生まれたのかもしれませんね。
——無重力環境での睡眠について教えてください。
毛利無重力での生活では、睡眠が一番楽ですね。空間に浮かんでいて、眠たくなったら浮かんだまま寝るのですから、まるで温泉の中で寝てしまうようですね。温泉で寝てしまうと危険ですが。(笑)
——テンピュール®は、"無重力状態の宇宙で眠るときに自然となる姿勢"とも言われる、理想の睡眠姿勢「Zero-G® ポジション」で眠ることを推奨しています。
毛利“自然に力が抜けた状態”で手足や頭がだらっとした状態。それが無重力における姿勢です。重力がある空間で日々過ごしている私たちは、自然に頭が上で足が下という姿勢がインプットされていて、宇宙飛行士が無重力の環境に身を置いた場合、最初のうちは身体のどこかに力が入ってしまうことがほとんどです。ですが、3日ほど過ごすと慣れてきて、「あぁ、勝手に身を任せればいいんだ」と気づきます。
無重力の場合、身体のどこにも力が入っていない状態になると自然に動きが止まるんです。まさに、胎児のような姿勢という表現があっているかもしれません。その状態を保つことが、睡眠には重要だと思います。硬い寝具ではなく、低反発がそれを確保してくれる。まさにテンピュール®の良さですよね。
——宇宙では寝返りなどはしないのでしょうか。
毛利寝返りは、何のためにすると思いますか?
——血流を促進したり、温度や湿度などの調整をしたりでしょうか。
毛利血流を調整する必要があるのはどうしてでしょうか?
——重力があるからですね。なるほど。
毛利重力がないから全くそういう必要はないと思います。だから、寝返りはいらないはずです。まぁ、無意識にしている人もいるかもしれませんが。
——宇宙ではいびきをかかないという話を聞いたことがあるのですが、本当ですか?
毛利理論上は、お医者さんがおっしゃるように呼吸器系に重力がかからなくなるので、いびきは減少するのだと思います。実際、私もかかなくなりました。しかし、他の宇宙飛行士がいびきをかいているの聞いていますので、やはり個人差なのかなと思います(笑)
——重力があると、寝ているときに腰が痛いとか、自身の体重などの負荷がかかって身体が痛いことがありますが、宇宙ではどうなのでしょうか。
毛利すごくいい質問ですね、その研究には二つあって、カナダの宇宙飛行士が、宇宙に行くと腰が痛いと言うんです。しかし、私は宇宙に行ったら全く腰痛がなくなってとても楽になった。ちなみに、彼は、まっすぐにした姿勢で寝ることが自然だと思っていたらしく、私は、赤ちゃんのような丸くなった姿勢で寝ていました。
少し話は逸れますが、宇宙飛行士が地球に帰還するとき、急な重力の変化によって腰を痛める宇宙飛行士は多いと言われています。ロシアでは、その対策として1人1人の背骨の形に合ったシートなどを用意しているようです。
——宇宙空間での寝室環境を教えてください。
毛利宇宙船内に自分のカプセルホテルのような個室があるので、部屋を暗くし、音楽を聴きながら寝ています。ただ浮いていると漂い周りにぶつかってしまうので、マジックテープで体を壁に固定しています。
——宇宙での生活の中でその睡眠時間的には決まっているのですか。
毛利私たちの頃は一応8時間の睡眠時間が確保されていました。短期間の宇宙飛行のため時間が貴重だったので、2チームが交代制で12時間のシフトを組み、宇宙実験や観測をしました。実際は実験を成功させるために忙しく睡眠を削って活動しましたね。地上の猛烈サラリーマンと同じです。(笑)
しかし、半年や一年の宇宙滞在のISS(国際宇宙ステーション)では、グリニッジ標準時で生活をしています。全員が同じ時間に起きており、まさに地上の生活と同じ時間の流れですね。
——睡眠時間もデータなどで管理されていたのでしょうか。
毛利そのようなプロトコルが対象となっている宇宙飛行士のデータはしっかりとっていましたね。また、NASAでは、時差ボケ解消の研究が進んでいて、当時は12時間シフトで仕事をするために、チームごとに打ち上げ日までに完全に昼夜を逆転させる訓練を行っていました。天井いっぱいに蛍光灯がついた施設で、真昼の明るい太陽に照らされた状況下をつくりだし、そこに身を置くんです。それを4時間ずつシフトしていくと3日もあれば、昼夜逆転します。体内時計をコントロールするんですね。
——先ほど、テンピュール®のベッドを体験いただきましたが、ご感想はいかがですか。
毛利無重力環境に近く、身体がとても楽になった感じがします。6°TILT=脚部に6度傾斜をつけて上げることにより、血流が無重力環境と同じ状況になるという研究をJAXAもNASAと進めていましたね。
——実際に無重力を体験された毛利さんのお言葉。本当に貴重なお話だなと思いました。
毛利皆さんがもし無重力を感じたい場合は、スキューバダイビングがおすすめです。水から掛かる浮力と自分の重さがちょうど釣り合う、浮きも沈みもしない状態=中性浮力が無重力に近いイメージです。
——最後に、今後の宇宙への希望や展望をお聞かせいただけますか。
毛利これからは民間の時代だと思います。宇宙旅行に行きたい。ビジネスにどれだけ役に立つかという視点で、いろんなスタートアップ企業が生まれ投資されるようになってきています。
宇宙には、新しく魅力的な発見が、それこそ限りなくあります。
たとえば、無重力は睡眠にとても適しているので、専用のホテルがあってもいいかもしれません。また、年齢を重ねてきたら、月面の老人ホームに住むという選択肢もおもしろいですね。月では、体重が6分の1になりますから、足腰に負担を抱えている人でも快適に過ごすことができるはずです。
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宇宙飛行士・科学者
毛利 衛 Mamoru Mohri
理学博士。核融合研究者から1985年に日本人初の宇宙飛行士候補に選抜される。1992年と2000年にスペースシャトル・エンデバー号で宇宙実験や地球観測を行う。2000年、日本科学未来館の初代館長に就任。2003年、世界初南極皆既日食観測および「しんかい6500」搭乗深海実験。2007年、南極からの環境授業を行う。主な著書に『宇宙からの贈りもの』『宇宙から学ぶ ユニバソロジのすすめ』(岩波書店)、『日本人のための科学論』(PHP研究所)『わたしの宮沢賢治 地球生命の未来圏』(ソレイユ出版)などがある。
内閣総理大臣顕彰、フランス・レジオンドヌール勲章、藤村歴程賞など受賞多数。